Garden

一生懸命育ててきた植物がいきいきと育つ、 マイガーデンがある喜び。

仕事の都合で転勤が多く、様々な土地でずっとマンション暮らしをしていたという山田由乃さん。数年前に転勤先の香川県からゆかりのある横浜・桜木町に居を移すことが決まり、これからどんな暮らしがしたいのか、改めて向き合ったとき、第1に考えたのは、いままでに大切に育ててきた「植物が生きやすい環境」であること。植物がのびのびと育つような住まいをイメージし、条件付き土地と建物を購入することを決意。自分たちの暮らしに合った住まいを設計士と模索するうちに、思いがけず庭を作るスペースの余裕が生まれたことをきっかけに、念願の“マイガーデンのある暮らし”が叶った。いまでは、家族3人の“遊び場”にもなっているという山田家の庭が出来るまでの道のりや植物への深い愛情について話を伺った。

鉢植えで大切に育ててきた植物が 生きやすい環境を作る。

みなとみらい線の桜木町駅から徒歩20分程度の閑静な住宅地に住まいを構えた山田家は、小高い丘の上にある。

「私はずっとマンション住まいだったので、実はこうして一軒家を建てて庭を作ることは全然想像していなかったんです。もともと、植物が好きで、ガーデニングにも興味があり、主人と結婚する以前に付き合っていた頃は、園芸ショップに行くことがデートのような感じで(笑)。それからしばらくして結婚し、新婚の頃に転勤が決まって、香川県で暮らすことに。周りに知り合いもいない寂しさも相まって、趣味のガーデニングに没頭するようになりました」

マンション暮らしのときから、山田さんはベランダで50〜60ほどの植物を鉢植えで育てていたそう。

「転勤が多いという理由でふだんからあまりものを持たない生活を心がけていたのですが、私にとって植物はまったく別もので。引っ越しをするたびに、トラックの半分が植物になるくらいスペースを占拠していました(笑)。これまで、たまたま日当たりのいい家を転々としていたので、幸運にも元気な状態をキープすることができていました。これからの自分たちの住まいを考え、夫婦で話し合ったときに、日当りがよく、風通しが良くて植物がちゃんと元気に育つところがいい、という基準が最優先事項に。いろいろと探していたときにたまたま見つけたのがこの土地なんです。最終的には、自分たちで考えて家を建てた方が良いのではないかな、という結論に至りました」

そうした想いを抱きながら、自分たちの理想の住まいを設計士と模索するうちに、母屋と接道の間に位置するスペースに庭を作れるだけの余裕が生まれた。

「納戸を作らない代わりに庭に割けるスペースができたことがとても嬉しかったです。以前、ガーデニングの楽しみ方を模索していたときに本に載っていた『BROCANTE』さんが手がけた庭に対する憧れがずっと心に残っていました。周りの風景に自然と馴染んだ、ずっとそこにあったかのような経年変化を感じさせるウッドデッキや花壇のしつらえがとっても素敵だったんです。こんな植物との関わり合いもあるんだ、と勉強になることがたくさんあり、憧れの『BROCANTE』さんに施工をお願いしました。まず、いちばん最初に気がかりだったのは、鉢で育てている植物たちのこと。いままで狭い植木鉢の中で頑張って生きてきたので広いところで育ててあげたいと思い、それぞれの植物にとって適切な場所に植え替えていただきました。暴風雨で吹き飛ばされそうな日も、我が子のように大切に一生懸命守ってきた植物たちが、地植えで育っているのを眺める時間はとても感慨深いものがあります」

雑草が生えにくいように化粧砂利を敷いて、地面の見た目の印象を 明るくした。紫色の上品な花を咲かすノコンギク。
新たに山田さん自身が植えたキク科の多年草のダリア。 舟型の華やかで長い花弁が気分を高揚させてくれる。

限られたスペースを有効活用し、庭、ウッドデッキ、遊び場にすることで日常が豊かに。

限られたスペースを有効活用するべく、駐車場、玄関アプローチ、庭、収納、プライベートスペースなど、様々な機能を兼ねた空間になるようにプランニング。舗装やウッドフェンス、ゲート、ウッドデッキなどを作り、それぞれのスペースを区切る工夫を加えたことで使い方、楽しみ方が俄然、広がった。

ウッドフェンスは柱や笠木などの構造的に痛みやすい部分に耐久性が高いサイプレス材を用いて、その他の部分に杉材を使用。経年変化した木材の色に似せて塗装することで、実際に経年変化した時に見た目の変化が少なく、馴染んで見えるような仕様に。天然の杉の香りは森林浴しているような清々しさがあり、リラックスを誘ってくれる。
4畳程度あるウッドデッキ。内側の壁には黒板を貼り、絵を描いて遊べるス ペースに。「自粛期間中は公園にも行けない状況も長かったので、この空間 があることに助けられました」
天気のよいはハンモックを吊るして遊ぶことも。

庭を持つことで新たに家庭菜園にもチャレンジ。

「ウッドデッキの近くのスペースは菜園スペースになっています。去年は夏にナスが25本くらいとれて、大豊作。一昨年はミニトマトを植えたら、ミニトマト畑みたいになるほど。去年は欲張りすぎて、いろいろと植えすぎてしまったことで、それぞれが日陰を作ってしまい、あまりうまく成長しないものもありました。いろいろやってみて分かったことは、狭いスペースの中で野菜を育てる場合は、2種程度に絞るとよく育つということ。ちゃんと石灰を撒いて、苗を植えて作業してみると、作物を作る難しさや大変さを知る学びにもなり、農家さんの気持ちが少しだけ分かったような気もしました」

育てている植物、花、野菜を把握するためにノートに書き留めるようにしているという山田さん。「与えている肥料や剪定時期などを明記しています。いままでは感覚的に育てていたところがありましたが、害虫対策や適切な育て方を調べて取り組むと結果が歴然と違ってきます。そうした日々の気付きもメモしています」
ウッドデッキがあるすぐそばの部屋には、花器や造園にまつわる資料を飾り ながら収納。「フラワースタイリストの平井かずみさんの教室に通い、 フラワーデザインやリースの作り方なども学んでいます。庭の草花を部屋の 中で生けるときやリースを作るときに実践で学んだことを活かしています」

好奇心のままに大好きな植物と向き合い、試行錯誤しながら草花や野菜を育てる喜びを日々、実感している山田さん。庭のほかに屋上があり、こちらでもキッチンハーブや木苺や金柑などのフルーツ、さまざまな草花を育てている。抜けの良い高い空を仰ぎ見る心地よさや吹き抜ける風の清々しさを静かに感じられる、日常のエアポケットのような癒しの空間だ。

「夏場はビニールプールに水を張り、家族で水遊びをしたり、お酒を飲みながら食事を楽しんだりすることもあります。ここで育てた金柑を使い、お正月にスワッグを作りました。庭や屋上があることで暮らしが楽しくなるし、植物への探究心がどんどん膨らみますね」

photo / Takeshi Abe, edit& text / Seika Yajima