春の野に咲く可憐。

タチツボスミレ

’スミレ’という言葉は私たちの生活の中では何かと身近な音となっていますが、改めてこの小さな花と増遇すると、何だか物語の中の人物に出会ったような不思議な感覚を覚えます。
そして、その音から連想される’可憐’や’凛とした’といった形容を、実際の形として鮮明に体感させてくれる気がします。

世界中に多くの種類が存在するスミレの仲間、その中でも日本には最も多くの種類が自生していると言われます。
この種はその中でも早い時期、まだ寒さの残る早春に枯草に混じりながら藤色の花を咲かせます。

北海道から沖縄まで広範囲にわたり自生し、古くは万葉集から松尾芭蕉などの句に登場する’すみれ’や’すみれ草’の多くはこの種の事を指しているといわれています。
それに加え、名前の中の’ツボ’は’庭先’といった意味会いと推測されるということを牧野冨太郎博士が著書で述べられていることもあり、
昔から日本人に親しまれている身近な存在だったことが感じられます。

しかしながら、現代においては関東近辺の都心部及びその近辺ではなかなか見ることが出来なくなっており、寂しい感じがしますが、山間部などの集落に行くと石垣や畑の縁等、相変わらず人の生活のそばに咲いているのを見かけられます。

数多くあるスミレの中でも、地上に茎が立つものと、立たないものに大きく分けることが出来、前者のものは全体的には少数派との事ですが、これに属する本種の名前の中にある´タチ’はこういった区別からつけられた事が推測されます。

細かい種類分けでは、微妙な違いによる区別が多く、タチツボスミレに近しい種ではニオイタチツボスミレ、ナガバタチツボスミレ、オオタチツボスミレ、エゾノタチツボスミレ等あり、さらに同種内の個体差もあったりと、中々見分けの難しいところがあります。

kensuke-watanabe

Data

植物名
タチツボスミレ
学名
Viola grypoceras
区分
落葉多年草
参考サイズ
10cm

畑の淵の傾斜の枯れ草から藤色の花を覗かせる。(神奈川県北西部、3月中旬)
(京都府中部、4月上旬)
コンクリートの土留め際。(神奈川県北西部、3月中旬)
近縁種のオオタチツボスミレ(京都府中部、4月上旬)

Viola grypoceras

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植物図鑑について

お庭と生活のお話をさせていただく上で、パートナーともいえる植物たちの事を、私たちなりに感じるそれぞれの良さや、付き合う上で知っておくとよさそうなこと等、観察の記録的な情報も交えながら紹介しています。

題名(植物名)
日本において一般的に用いられている名称です。他にも一般的な名称や俗称、学名の読み音の違いなどある場合は別途記載してます。
キャッチフレーズ
植物の名前は一回聞いて音では認識できてもどういうものか想像しずらいものが多いです。故に覚えずらくもあります。そこで、私たちなりにこの植物を表現する言葉を出来るだけ多くの人がイメージしやすいものと結び付けてあらわそうと試みています。昔の洋楽についていた邦題のような感じで、時には恥ずかしくなるようなダサさも漂いそうですが、何はともあれ興味を持っていただくきっかけとなれば良しと思っています。
学名
植物の中には呼び名が様々あったり、名称が重なったりするものがあるので、誤解を避けるため、どの植物を指しているかの基準とするため記載しています。
区分
東京近辺で見受けられる傾向として、季節によって葉がなくなるか無くならないか大まかな傾向を表記しています。なので学術的な表記とは異なり、あくまでも実用上の目安とするための独自の情報とご理解いただければと思います。
参考サイズ
植栽をしたときに、植物の魅力を感じられる又は剪定を行いながら無理なく管理できるお勧めのサイズ感を表記しています。