「エディブルガーデン」がある幸せ。
生まれ育った東京都・杉並区の閑静な住宅街に、2015年に自宅をリフォームしたという加賀山さんご夫婦。ご主人のリタイア後のタイミングで、大々的に庭作りも行いました。
「食べることが大好き」とニッコリ微笑む仲睦まじい進さんと訓子さんは、果樹やハーブなど食べられるものを中心とした「エディブルガーデン」に。
手塩にかけて育てたヤマモモでジャムを手作りし、朝ごはんのトーストでいただいたり、摘み取ったハーブをパスタに和えたり。
庭のデッキでは愛犬のラブラドール「ビクター」と戯れながら、心豊かに日々の暮らしを営んでいます。
食べられるものを育てる
「食べられるものがいっぱいでワクワクしますね」。充実感に満ちた笑顔で嬉しそうに笑う訓子さん。庭の所々には、ブドウや柿、ヤマモモといった果樹やフェンネルやディルなどのハーブ、春菊やネギをはじめとする日常で頻繁に食す野菜を育てている。今では日々の食事の材料に事欠かないほどの豊かな庭になっているが、もともとは雑草が茫々と生い茂っていたそう。
「軽井沢の別荘に滞在しているときに、たまたま立ち寄った本屋で『BROCANTE』の松田行弘さんの庭づくりの本に出合ったんです。そのときに、一瞬で素敵! と心が動かされました。それで、東京の家の庭はぜひ、松田さんにお願いしたいと思って、電話で直談判(笑)。東京の家の庭は瓦礫の山になってしまっていたのですが、そこをゼロから再生してもらいました。一軒家は周囲から丸見えになってしまうのがネックなので、目隠しになるように枇杷の木や大きな植物を植えてもらって。私たちは植物を育てるのがあまり得意じゃないこともあり、『食べられるものを育てる』というのが夫婦共通の想いとしてまとまったんです。25年前くらいは、地元の顔見知りのおじさんに誘われて、苗をいただいて区民農園をしていたこともあったんですよ」
かつて区民農園をしていたときからさらにパワーアップするような形で、広々とした自邸の庭でホースラディッシュ、春菊、エンサイ、フェンネルをはじめとする、たくさんの野菜やハーブ、果樹を育てている。
「採れたてのフレッシュな状態のものは味が濃くてすごく美味しいです。野菜もハーブも果物もスーパーで購入すると高価ですし。朝食のサラダにしたり、チャービルというパセリのようなハーブはオムレツに使ったりしています。辛味と酸味があるナスタチウムやカレンジュラは、松田さんに食用にもなることを教えてもらって以来、ハムやチキン、卵をのせたサラダに散らしていただくことも増えました。あとは、山椒やシソ、ミョウガ、パクチーも植えているので、パパッと収穫して料理のアクセントに使っています。果樹では枇杷酒を作ったり、ジャムを作ったりも。そんな日々を過ごす中で、よく通っている近所のフレンチレストランのシェフと育てているものの話で盛り上がったんです。彼もご自身でハーブを育てていらっしゃる方で、ときどき自分たちで育てたハーブと彼が育てたハーブを物々交換することもあるんですよ」
自分たちの好みの庭を作ったことで、そうした趣味の延長線上のコミュニケーションもより深まるようになったそう。
「そういう会話がとても楽しいんです。僕はベーコンや鴨の燻製作りが趣味のひとつなのですが、松田さんに庭の一角に作業をするための小屋を作ってもらって、その作業がますます楽しくなりました。シャビーな雰囲気にしつらえた空間がとても気に入っています。実際、燻製作りに取りかかると、1日がかり(笑)。友人を招いて燻製のつまみや料理を囲みながら、ワインを飲んでおしゃべりを楽しんでいます」
好きなことにはトコトン凝る性格の進さんが、何より大切に育てているのが巨峰だそう。
「去年は13房実りました。本当に甘くて美味しいのができると、嬉しくて。虫にやられないようにあれこれと策を考えて、大事に育てています。日々、そのケアを丹念にするのが僕の日常です(笑)」
そんな姿を微笑ましく見守る訓子さんの方が、どちらかというと庭仕事のリーダーのようだ。
「主人は巨峰と犬の世話が専門(笑)。ある日、育てている野菜やハーブを主人が雑草だと勘違いして、引っこ抜いてしまったことがありました(笑)。以来、育てているものの名前を札にして、一目見て分かるように立てかけて管理しています。順調に育ってくれるときもあれば、水やりや剪定の仕方を間違えたり、虫に食べられてしまったりして成長しないこともあります。けれども、いろいろと試行錯誤しながら、愛情をかけて育てたものが順調に成長して、無事にいただけたときはとっても充実感があり、美味しさも増します。思えば、私たちが子供のときは、親に公園に連れて行ってもらうことがなくて、庭で同い年の子と遊ぶのが日常でした。実家には柿や梨や梅があって、ミョウガを取って食事に使うこともありましたし。そういった原風景があるので、こんな暮らし方が自分にとっては自然なことですし、心から楽しめることなんだと思います。自宅に飾る花も庭で育てた大好きなアナベルをバサッと摘んできて、ラフに生けています。そんな日常がとっても愛おしいです」
photo / Takeshi Abe, text / Seika Yajima