Garden

建築家が創った小さな“屋上庭園”と借景。

オフィスや住宅設計を手がける建築事務所に勤め、20年以上建築の仕事に携わってきたという佐藤さん。5年前に満を持して自ら設計した東京都世田谷区の住宅街の一軒家では、ご主人とふたり暮らしを楽しんでいらっしゃいます。広々とした空間の中でとりわけ目を引くのは、ちょっとした“屋上庭園”のような開放的な空間と外との繋がりを感じられる大きな窓。たとえ大きな庭はなくとも、家の中に居ながらにして周囲の自然や植物の息吹を感じられる工夫を凝らした空間には、佐藤さんの美意識の高さが窺えます。

自然が身近に感じられる土地に家を建てたかった。

「自分の理想の家を建てるためにいちばん大切にしたかったのは、窓から見える景色がマンションやコンクリートの壁にならないこと。以前住んでいたマンションは神田川のすぐそばにあって、桜並木を眺められる景色の良さと開放感を気に入っていました。昔から自然が身近に感じられる土地じゃないと、『住みたい』とまでは絶対に思えなくて。だから、自分の家は植物が身近に感じられる家にしたいというのが、ざっくりとしたイメージとしてありました。それからしばらくの間、土地を探していたときにこの土地に巡り合ったんです。家の目の前には八重桜が植えられていて、周辺の住宅にもいきいきとした緑が育っています。その眺めがとても心地よく、借景を生かした家を作りたいと思うように。屋上がある家に住むのが小さな頃からの夢だったので、それをやっと叶えられたことがとても嬉しかった。さらにプラスアルファで玄関周りや屋上にも自分の好きな植物を植えたら、もっと素敵にコーディネートできるんじゃないかと思い立って、外構造園はいろいろ調べて自分のセンスと合いそうな〈BROCANTE〉さんにお願いすることにしました」

自然を身近に感じ、植物とともに暮らすことで、日常にどれだけ豊かな彩りが生まれるのか。そのことを土屋さんは感覚的に深く感じ取っていたようだ。

「植物や花は大好きですが、特別詳しというわけではないので、〈BROCANTE〉さんに自分の好きな植物のイメージをお伝えして、ほとんどお任せしました。屋上のプランターには、比較的暑さにも寒さにも強い植物を植えてもらっています」

柵に沿って配置されたプランターには、垂れ下がるように地面を這う様に生命力の強さを感じるブルーパシフィック、常緑低木で年間を通して楽しめるオーストラリア原産のウエストリンギアをはじめとする植物が茂っている。セレクトしたのは、見晴らしのよさを保てる背の低いものや、強風によって植物がなぎ倒される心配のないもの。それらの植物は、比較的暖かい東京では、越冬も可能。サバイブ能力が高く、すくすくと育っているのが印象的だ。そのほかにもふだんの料理に活用できるローズマリー、白い花を咲かせる上品な佇まいのフレンチラベンダー、優しいレモンイエローの丸い花が可愛らしいアカシアの姿も。

「基本的には〈BROCANTE〉スタッフの渡邉さんと一緒に植物を見に行き、自分が気に入ったものを植えてもらった感じです。それに加え、個人的に近所のグリーンショップを訪れたときに気に入った植物も購入して、自ら植えたものも。手入れは潅水装置で1日1回水をやり、たまに剪定したり、肥料をあげたり。その作業自体、とても楽しんでやっています。渡邉さんからは、成長するとプランターの根っこが詰まってくるので、『3年に1度は根っこを小さくして植え直すといいよ』とアドバイスをもらいました。これからは、それを参考にしながら、植物が気持ちよく育つ環境を整えることを頑張りたいと思います。ここでビールを飲みつつ、自分が大切に育てた植物を眺める時間は、とっても幸せなひとときです」

一方、家の中には観葉植物を置かず、主に借景と花を生けることで草花を愛でているという佐藤さん。

「室内に植物を置くと、虫がついてしまいそうなのが気がかりで。落葉樹の場合、冬は枯れ木になり3月くらいから芽吹きはじめるものもあります。私は落葉樹の葉っぱが薄くて、光を通す見た目が好き。特に5月の新緑のシーズンの様子が好みかもしれません。実際、その頃に体調を崩してしまい、数日間寝込んだことがあるんです。せっかくのお休みに寝込んでしまって、ちょっと気分が落ち込のですが、そのときに見た窓辺の木漏れ日の風景にすごく癒されている自分がいたんです。改めて、植物ってすごい力を持っているんだなと実感しました。窓辺の落葉樹はエゴノキといって、葉の質感が涼やかですし綺麗な白い花を吊り下げて最後には実になるんです。その感じがたまらなく可愛い。たまに鳥が食べにくることもあるんですよ(笑)」

そう嬉しそうに話してくれた佐藤さん。部屋の中では季節の花を生けることも日々の楽しみのひとつだそう。
「花屋に行くこと自体、大好きです。店内でしばらく花を眺めて、あれこれ吟味する時間も結構長くなっちゃいます。葉ものとの取り合わせを考えて、どういうフォルムで生けるかを試行錯誤するのも面白いんです」

photo / Takeshi Abe, text / Seika Yajima