Garden

型にはまらない、野趣溢れる庭の愉しみ。

2018年に東京都杉並区に一軒家を建てたことをきっかけに、庭づくりに目覚めたという雨宮さんご夫妻。フリーランスのグラフィックデザイナーとして活躍するおふたりは、ほぼ在宅で仕事をしていらっしゃいます。クリエイティブな仕事に励むためにも「庭いじり」は、イマジネーションを育てるいい時間にもなっているようです。

植物の名前を調べて、好きな器に植え替えるのが好き。

ふたり仲良く愛用している色違いの自転車は、日本で昔から作られている「文化巻き」という長さと勾配を調整することができる雨よけ可能なテントを設置した駐輪所スペースに。雨宮さんにとっては、この駐車エリアからすでに“庭”が始まっている感覚だという。
エントランスの舗装材はコンクリートが一般的だが、あえて砂利舗装を採用。そうすることでこのスペースでも植物を育てることが可能な仕掛けに。砂利の周りには、耐寒性や耐暑性に優れている白い小花を咲かせる「ヒメイワダレソウ」という、常緑の多年草が地面を這うように茎が逞しく伸びて広がり、ローズマリーが気持ちよさそうにのびのびとワイルドに茂っている。

「家を建てるときに外構はあまりかっちり決めすぎない感じにしたくて、ガーデンデザインをしてもらった『BROCANTE』さんには、そういったイメージ的なことからご相談しました。植物が自然と伸びたい方に伸びていくようなワイルドな感じがいいなと。あとは、芝生やちょっとした丘のような起伏があり、植物がふと香ってくるような心地よい空間にしたいという想いがありました」

例えば新たにプランターボックスを作ったり、植物を収納するために大きな道具や仕切りを絡めたりするような“化粧”はせず、無垢でワイルドなイメージを意識して庭全体をコーディネート。植物を育てる際にプラスアルファとしての道具を使う場合は、アメリカ・オレゴンで生まれたリサイクルペットボトルと天然素材をミックスして作った不織布製の植木鉢「ルーツポーチ」を使用。ポールに引っ掛け、植物をディスプレイしながらカジュアルに植物を育てている。この「ルーツポーチ」は通気性や透水性に優れていて、植物の根が育ちやすいため、国内外の生産者やガーデナー達からの支持も厚く、樹木や草花、野菜などの栽培に使われることも多いという。さらに、土に埋めておくと3〜4年で分解される素材で、地球に優しいサステイナブルなプロダクトとして、安心して使えるのも嬉しいところ。

「僕は『ルーツポーチ』にアロエを植えています。アロエは万能薬的な植物と言われているけれど、生活の中で薬効的な目的で活用することはなく、観葉植物として愛でて楽しんでいます。いまでこそガーデンライフを楽しんでいますが、もともとは植物にそこまで強い興味を持っているタイプではなかったんです。一軒家を建てるときに庭をどうしようかと考えたときに知人を介して『BROCANTE』さんに出合いました。最初は『サルスベリ』の名前くらいしか知らなかったぐらい(笑)。庭を作っていただいたことをきっかけに徐々に植物への興味が湧いていった感じです。以前に一度だけ、盆栽教室に通ったこともありました。けれど、いざやってみると自分にとってはいろいろと手間がかかり過ぎて難しいものに感じてしまって。“シンプルに水をあげたら育つ”ワイルドな育て方が好きなので、いまの家では比較的ラフに育てられる植物を選びました」

さまざまな植物の中でも雨宮さんが特に好んでいるのは、オーストラリア生まれの変わり種のもの。例えば、常緑低木の葉っぱが三角の形をしている「サンカクバアカシア」やカンガルーの前足のような形のユニークな花を年1回咲かせる「カンガルーポー」など。

「植物のユニークなフォルムを眺めるのが好きなんです。家で仕事をしているので、朝か夕方に水やりする時間がすごく楽しくて、仕事の合間のいい気分転換になっています。それに加え、猫と暮らすようになってからは、猫が好きな植物と嫌いな植物があることに気がついたんです。それが何なのかを試すのがまた面白くて(笑)。猫はレモングラスが好きみたい。庭で育てているレモングラスは野良猫も食べにくるんですよ(笑)」

猫が大好きな雨宮さんは、植物と同じくらい猫の生態にも興味津々。庭のレモングラスを食べられても、大らかな気持ちで温かく見守っている。そんな風にゆったりとした心持ちで、植物や動物とじっくりとマイペースに向き合う姿が印象的だ。

「食虫植物の代表的な一種として知られる『ネペンテス』は見た目がグロテスクなところが面白くて気に入っています。けれども、冬を越すのが難しかったのか一回ダメにしてしまったことがありました。その後、街のグリーンショップで再び出合ったので、今度こそ頑張って育ててみたいと思いました。『BROCANTE』さんには、12月くらいまでは外に出してもいいけれど、1月〜3月までは部屋の窓辺に置いていたほうがよいと教えてもらって。これからは、そのアドバイスを意識しながら育ててみたいですね」

ビジュアルに関連したお仕事を生業にする雨宮さんご夫妻。気に入った古道具やハンドクラフトの陶器に移し変えて育てているところも、おふたりならではの趣味性が際立っている。

「仕事場に置いている植物は『ア クエスチョン オブ イーグルス』というアメリカ・ロサンゼルスのデザインスタジオが制作する植物プランターにディスプレイしています」

デザイナーがアメリカの大自然によってインスピレーションを受けて、すべてハンドメイドで制作されているこのブランド。アメリカの雄大な風土がどことなく感じられるものの佇まいや器としてさまざまな用途に使えるところも魅力だ。

「器をよく見てみると、ところどころガタガタしていたりもするのですが、そこが妙に味があって面白い。1カ月に1個くらい、植物を育てるための器を購入するのも日常の楽しみだったりします」

家を建てて1年半。家の外と中には興味のままどんどん植物や関連するグッズが増えてきた。

「今の家に住む前から長く育てていた植物は名前を知らずに育てていたりしました。けれども、いまでは、名前の響きが気になる植物を家に連れて帰るように変わりましたね。僕は植物の名前を調べるのも結構好きなんです。面白い植物を探しているうちに、マダガスカルや東南アジアが原産国のリュウゼツラン科の『ソングオブジャマイカ』という植物にも出合いました。すごい面白い名前ですよね。なんで、こんな名前をつけたんだろう?と次第に興味が募りました。あとは植物の葉っぱの形を眺めるのも好き。ずっと眺めていると葉の緑色の違いにも敏感になり、色彩の捉え方もより繊細になった気がします。そういった植物とともに生きる日常は、仕事で絵を描くときにもいい形で生かされているように思いますね」

photo / Takeshi Abe, text / Seika Yajima