Garden

障子を開けると、和洋折衷な庭の景色に出会う。

建築編集家/五十嵐さとしさんと建築家・美術家/福岡みほさんが『都会暮らし、森暮らし®︎を日本の暮らし文化へ』と提案している建築ブランド「モリノイエ」。軽井沢〜八ヶ岳の山岳エリアを中心に瀬戸内、京都、東京などで、主に住宅や別荘の新築、リノベーションを手掛ける彼らのアトリエは、渋谷を一望する代官山の丘の上にある。自然とともに暮らすことの豊かさを伝えながら、長く、深く、愛せる住まいを造り続ける彼らの働く場所には、いつも眺めていたくなるような美しい庭がある。それは、都会の中で感じられる身近な自然。「seeding」が手がけた庭の魅力や在り方、そして、植物や自然に対する想いについて、福岡みほさんと「seeding」ガーデンディレクターの渡邉賢介さんに語り合ってもらった。

都会のマンションで、縁側で過ごすような時間を。

福岡:もともと「seeding」さんに庭づくりをお願いしたのは、表参道にあるアパレルセレクトショップ「THE LIBRALY」の庭に一目惚れしたのがきっかけ。イングリッシュガーデニングのように様々な種類の植物を用いつつ、全体のトーンはナチュラルで。緑に包まれるような落ち着いた佇まいがとても素敵で、自分たちの事務所の庭によきインスピレーションを与えてもらいました。店の方に尋ねてみたところ、「seeding」さんが手がけていることを知って。とても嬉しい出会いでした。

渡邉:自分たちが手がけたものを見て、お声がけくださったことがとても嬉しいです。お客様と商談したり、打ち合わせをしたりするこちらの部屋は、大きなスクエアの窓があり、窓自体がどこか額縁のようで。このフレームに合わせて絵を描くように庭を作れたらいいな、というのが最初のイメージにありました。広さにすると横幅が9mで奥行きは約3mほどですね。

福岡:障子の開閉によってフレームの景色が変化することが、この空間の面白いところだと思っています。スカンジナビアの家具を置き、障子をしつらえて、北欧と日本が融合したような部屋にしたかったんです。障子を閉め切っているときは光の具合によって、植物の樹形や葉の形のシルエットが浮かび上がる。その様子がとても綺麗なんです。オープンしたときはもちろんいいけれど、閉め切って眺めている時間も好きですね。

渡邉:縁側で眺める景色にすごく近いですよね。窓の枠を意識して両端にかかってくるように紅葉やシマトネリコなどを配置して、見え方をデザインしています。そして、代官山という立地にしては、空が広く見える恵まれたロケーションなので庭の奥の方は視線が抜けるように造りました。あとは、プランターの高低差を意識して、リズムを作ったりして。光や風の方向や水の流れ、傾斜の影響によって緑の樹形が時を経て変わっていく様がまたいいですよね。植物の形はすごく素直でシンプル。枝を出して、葉を出して、幹になってとシンプルに伸びていく営みが続いていく。そうした特徴を駆使して、柔軟に環境に対応していけるんです。ここに植えた紅葉は「山掘り」と言って山から掘ってきたものなんです。なかには、ぐねぐねと曲がっているものもあるのですが、そういう状態をあえて楽しんで植えるスタイルが最近はわりに人気があったりします。この紅葉のちょっと曲がった感じは、山の中でほかの木などの障害物を避けるように伸びてきたもの。生きるために植物が光を求めて、形を変えてきた結果なんですよね。

長きに渡って愛せる材質や意匠を選び抜く。

福岡:それがとても自然に見えますよね。何気ない日常で、枝の一つひとつを微細に眺める楽しみが生まれます。あとは、プランターに「焼杉」を使って欲しい、というリクエストをしたのは自分なりにこだわったポイントですね。東日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、西日本では家の外壁や塀などに多く用いられてきた外装材で、国産杉の表面を焼いて炭化させたものです。

渡邉:意匠としての魅力がありますよね。自然素材ならではの木目や色彩のばらつきや風合いに面白みを感じています。

福岡:一枚、一枚、焼き方のヒビの入り方が全然違うので有機的なものに見えがちなのですが、炭化しているので無機物なんです。だから、わりに持ちがいい。さらにもうひとつ「焼杉」使った理由があります。この建築で使われている外壁の白タイルの明るい反射光と、室内の左官壁のしつらえに少しギャップを感じていました。焼杉の墨色であれば、庭全体の重心を落とすことができ、景色に和の表情が入った雰囲気を感じることができるのでは、と想像しました。

渡邉:気持ち和風なのが落ち着きますね。「和と洋の融合」という観点だと、天然の丸石を取り入れることも意識しました。海外の水辺にあったもので、川で流されるうちに自然と角が取れて経年変化をしています。庭に出て外で同僚の方やお客さんとお話しする事もあると思うので「外に居たくなる空間」になるようにデザインしたいな、と。そのために天然の丸石やウッドデッキは重要な役割を担っています。

福岡:石にはいろんな種類がありますが、選んでいただいたものは茶色やピンクなど色幅があって、所々に暖色があるのが気に入っています。優しいニュアンスがあるので、庭から室内に視線を向けたときにインテリアにスッと目が馴染んでいくような感覚がありますね。リビングからも地面の景色が見えるようなところがすごくいい。雨の日は石が濡れている様が風流でとっても素敵です。

渡邉:窓景から庭を眺めるのと実際にテラスに出て庭を眺めるのとでは、また印象が違うところも味わいですよね。今回、植物のセレクトは落葉樹と常緑樹のバランスを意識しました。落葉樹は四季の移り変わりを教えてくれる存在。樹形の雰囲気が柔らかくてしなやかな雰囲気のものが多いのも特徴です。だから、紅葉は一番フロントの目に付く位置に植えました。一方で、ちょっと一段高くなるような場所には安定した緑の風景となる常緑樹を。常緑樹は落葉樹の雰囲気に対して固く重くなりがちですが、葉っぱが小ぶりなものを多く植えて、風通しがいい、重たくならないムードになるようにしています。風の動きを出せると素敵だと思ったので、そうしたことを意識したセレクトにした感じですね。

福岡:確かに、植物がしなるような微細な動きを見た瞬間、風を感じられるのがいい。とても好きなひとときですね。風通しがいい庭ってなんとも言えない心地よさがあるし、小さな丘のように高低差がある眺めも見ていて楽しいです。

渡邉:そんなふうに感じてもらえる事が嬉しいです。ところどころに花を咲かせる植物を植えたりしたこともポイントのひとつですね。たとえば、真ん中にアカシアを植えたりして。あと、庭に風情を出すためにグラス系の植物であるナキリスゲやカレックス・キウイなどを植えています。

福岡:色や形が同じように見えるグラス系の植物もよく見るとそれぞれが全然違っていて、色のグラデーションを眺めているだけでも楽しめます。濃い緑と薄い緑も上手に配置していただいていて。すごくシンプルな事ですが、植物の色は人間には作れない唯一無二なものなのだと、改めて気付かせてもらいました。

渡邉:おっしゃる通りです。あと、今回もうひとつ意識したのは、コンテナで段々とした庭を造り、洋風というかちょっと都会的なムードを演出した事。コンテナのひとつに日本で伝統的に使われている銅板素材を用いてみたことも、和洋折衷なムードを誘っているかな、と。植栽自体はオーストラリア系のものもあれば、紅葉など日本の植物が混ざっています。

福岡:ものは何にでも耐用年数があると思うんです。あまり庭で使うことは少ないと思うのですが、銅は耐久性が高いし、経年変化する様子も美しい。やっぱり、素材感というのは大事なポイントで、長く使って気持ちいいものを使いたいと思っています。「seeding」さんにお願いした庭造りも、耐用年数を踏まえた予算で考えることを念頭におきました。そうした観点は住まいにも繋がる考え方です。この部屋にあるキャビネットはヴィンテージのもので80年くらい前のもの。使っていくほどにどんどん風合いが良くなっているのを感じます。そんなふうに、量は少なくていいから、いいものをこれからも使い続けていきたい。そう強く思います。

渡邉:実際に作業してくれた板金屋さんが「今、なかなか銅を使わないんだよね」とおっしゃっていました。実際に使ってみるとすごく存在感があって格好いいですよね。

植物が持っている力を、感受する。

福岡:そうですね。庭が完成して1年ちょっと経ちますが、いい感じに馴染んできて。色味が統一されている感じも気に入っています。植物は春夏秋冬、少しずつ移り変わるとともに姿、形を変えていく様がなんとも美しい。私たちは自然豊かな軽井沢に「モリノイエ」を作っているので、やっぱり都市生活の中でもできるだけ自然と近い暮らしをしていたいと思っています。もしかしたら木にとっては「都会に植えられてしまった」という感覚があるかもしれないけれども、バランスを鑑みて植え込みをしていただいたおかげでちゃんと仲良く育っていただいているように思います。植物の「受け止める力」「内包する力」は本当に凄まじいな、と。それでいて「人間に合わせてくれない」ところも魅力のひとつだと思っています。最近は人間に合わせた便利なデジタルツールがたくさんあるので、一筋縄ではいかないところも魅力的に映りますね。

渡邉:そうですね。その場所に合う植物をある程度の精度で選ぶ事は可能ですが、水やりだけではなく剪定や虫が出たときのケアなど、日頃からこまめなお世話は必ず必要になってきます。そのお付き合いをどれだけ許容できるのかは人それぞれで。植物と付き合う相手に合わせて庭をデザインしていく事が僕らの使命だと思っています。

福岡: 庭を造っていただく前の景色は結構寒々しい印象でしたが、日々、庭に向き合っていると、緑が心に与えてくれる豊かさを改めて感じています。テラスは横長に繋がっている造りなのですが、タープを作って日よけできるようにしていただいたことが嬉しくて。外に出て気持ちがいい季節は昼食を食べたり、お茶の時間を楽しんだりしています。再び、春を迎えるのが今から楽しみです。

photo / Takeshi Abe, edit& text / Seika Yajima